訳者あとがき【連載小説】『ジャストジャッジ』オレパ作

訳者あとがき  シャオム

 僕がオレパと出会ったのは、今から4年前の9月でした。夜、大学から寮の部屋に戻ると、細身で小柄な、生粋のケニア人はそこにいました。陽気だが少し人見知りな、人間臭い男でした。オレパはすぐに寮生たちの人気者になりました。サッカーでは「無尽蔵」と呼ばれ、彼がときおりラウンジに寮生を集めて語る話は、毎回大盛況となりました。

 そんな彼が「小説を書いた」とそれを僕に見せてくれたのは、12月ごろだったと記憶しています。小さなノートに、几帳面に手書きしてありました。「日本語に訳して、日本で出版してくれ」と彼が冗談で言ったとき、僕は「そりゃおもしろい」と思いました。それから4年が過ぎて、オレパのノートに眠っていた小説『ジャストジャッジ』(原題:"Who is A Just Judge?")は本ブログで公開されることになりました。

 『ジャストジャッジ』は、法律家を目指すケニアの学生のお話です。ンバクは成績・人物共に優秀ながら、保守的なケニア法曹界の仕組みに翻弄され、何度も落胆します。それでも最後、ンバクが裁判員として裁判を見学する場面では、「正義」という問題についての作者自身の鋭い視点を垣間見ることができます。

 『ジャストジャッジ』は我々に、大切なことを教えてくれます。それは、世の中の仕組みは不正義であることです。私たちは、社会の問題や自分に降りかかる困難に嘆くのではなく、「なぜこうなっているのか?」と考えなければいけない。ンバクが司法試験に落第するとき、私たちは何を思うでしょうか。ンバクは物語の中で、「正義ってなんだ?」と自問します。しかし、この物語が問うているのは、純粋に道徳的な問題ではなく、なぜ社会が不正義なのかという問題です。「ンバクはなぜ出世できない?」「奨学金を不正受給した学生は、なぜ有罪になるのか?」これらの問題の根源、すなわち仕組みって一体なんだ?このことこそ、作者が題名で訴えた「Who is a just judge?」という問いの意味なのです。

 

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