期待値とは何か【ファイナンスを1から考える⑪】

どうもシャオムです。

「期待値」という概念を知っているでしょうか。これは数学の確率論に関する概念なのですが、高校の教育課程には入ったり外されたりしているようです。ただ、少なくとも期待値の考え方は、生活する上でもビジネスをする上でも、何か意思決定をしようというときに重要な考え方であろうと思います。今回は、期待値の概念と、期待値が私たちにどう関係しているかを考えてみましょう。

まず期待値とは何かを説明します。

当たりが出たら100円がもらえ、はずれが出たら何ももらえないクジAがあるとします。クジは5本のうち1本が当たりで、当たりが出る確率は1/5(0.2)だとします。このとき、1回クジを引いたときにもらえる金額の「期待値」を計算することができます。計算式は、

100 × 0.2 + 0 × 0.8 = 20

となり、もらえる金額の期待値は20円です。どういう意味かというと、100 × 2 は、当たりの金額に当たりが出る確率を掛けています。0 × 0.8は、はずれの金額にはずれが出る確率を掛けています。このように、起こりうるすべての出来事(今ならもらえる金額のパターン)に、それぞれが起こる確率を掛けて、足し合わせたものを期待値といいます。

次に、期待値は何の役に立つでしょうか。いま、当たりが出たら200円、はずれが出たら0円をもらえるクジBがあるとします。当たりは8本中1本だけ入っています(当たりの確率1/8 = 0.125)。クジAとクジBのどちらか1回だけしか引けないとき、どちらを引くべきかという問題を考えます。こんなときは、期待値を比べるのが一つの方法です。

クジBから得られる金額の期待値は

200 × 0.125 + 0 × 0.875 = 25(円)

となります。したがって期待値の比較だけで見れば、クジBを引いた方が得だということになります。期待値の使い方はおわかりいただけたでしょうか。

では、私たちがこのような意思決定をするとき、期待値のほかに考えないといけないことは何でしょうか。

それは、リスクです。クジAは1/5の確率で100円がもらえるのに対して、クジBは1/8の確率で200円がもらえます。クジBの方が、当たったときにもらえる金額は大きいですが、当たる確率は低いです。こういう場合、クジBの方がリスクが大きいといいます。数学では、リスクを表す指標として分散や標準偏差を使います。分散の計算の仕方は省略します。実際に人々は、期待値とリスクの兼ね合いを考えて、さまざまな意思決定をしています。これは、私たちも何か決断をするとき、無意識に行なっている考え方でしょう。

ということで、最後に、期待値の考え方を生活に当てはめて考えてみましょう。

たとえば、「午後は雨予報なので傘を持っていくかどうか」という意思決定を考えます。クジ引きでは当たりの金額を比べていましたが、ここでは何を比べているでしょうか。それは、雨が濡れたり外に出られなくなる不便さと、傘を持ち歩かなければならないという面倒さ(重さ、手が塞がれることなど)を比べているということになります。簡単のためにこれらの不便さを数値で置いてみましょう。

雨が降る確率を30パーセントと仮定します。雨に濡れる不便さを−100、傘を持ち運ばなければならない不便さを−20とします。これで必要な設定は終わりました。ここで重要なことは二つです。まず、期待値を計算するためには確率を仮定しなければならず、ここではもっともらしい確率を天気予報などから考えて設定する必要があります。そして二つ目は、自分にとっての不便さを考慮して、不便さの数値を設定する必要があります。雨に濡れるのがとても嫌いな人や、大事な服を着ている場合などは、雨に濡れることの不便さが大きくなります(数値の上ではマイナスなので、より小さくなる)。このように、自分の趣向や状況によって、数値の設定は変わるということです。

さて、期待値を計算しましょう。

傘を持っていった場合、雨に濡れることはありませんから、持ち運ぶ不便さだけが計上され、−20となります。これは、雨が降ろうと降るまいと変わりませんから、確率に関係なく−20です。

次に、傘を持っていかない場合の不便さは、

−100 × 0.3 + 0 × 0.7 =  −30

となります。今回の設定では、期待値は傘を持っていかない場合の方が低いので、傘は持っていった方が良いという結論になります。

さまざまな投資を考えるときには、どのくらいのリターンが得られそうなのかということが大きな判断材料になります。そのとき、今回のように確率に裏付けられた緻密な計算ができれば、確かな根拠に基づいた決断ができます。判断を誤った場合には、「確率を誤って仮定していた」というように、最初のモデルのどこに無理があったのかを振り返ることができます。このような考え方は、ファイナンスの核心となる考え方です。また別の機会に、リスクについても考えてみたいと思います。

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