問題を作ってみよう①

どうもシャオムです。

前回、問題を作る能力について書きました。今回は、問題を作るための思考がどのようなものであるかを確かめるため、実際に歴史の問題を作ってみましょう。東京書籍の中学校の歴史の教科書から引用して、この本文を踏まえた問題を考えてみましょう。

 

 イギリスから独立したアメリカは、アヘン戦争後に中国への進出を強め、太平洋を超えてアジアとの貿易を望むようになりました。アメリカ人の中には、鯨油などを採るために太平洋で捕鯨を行い、日本へ漂流する者もいました。そのためアメリカは、日本を、太平洋を横断する航路の中継地とするため、東インド隊司令長官ペリーを派遣しました。ペリーは、1853年、4隻の軍艦を率いて浦賀(神奈川県)に来航しました。

 

さて、このペリーに関する記述から、どんな問題が考えられるでしょうか。まずはこちら。

Q1:次の文中の空欄を埋めよ。「1853年、ペリーが(  )に来航した。」

歴史上の事実に関するシンプルな問題かと思います。もちろん答えは「浦賀」になりますが、この問題にはいろいろな欠陥があります。まず、文脈から、おそらく空欄に入るのは地名であることはわかります。しかし、極端にいえば「日本」と答えてもよい訳です。もしこの問題をペリー本人に出せば、もしかしたら「Japan」と答えるかもしれません。また、ペリーはこの年に、日本以外にも船でどこかへ行っているかもしれませんから、浦賀だけが唯一の答えであると絞られません。つまり、このような問題の出し方では、答えに幅が出てきてしまい、「ペリーが来航したの場所は浦賀である」ことを知っているかどうかを確かめる問題としては、やや雑ということになります。

もう少し精密な書き方にすると、こんな感じになります。

Q2:1853年にペリーが来航した日本の都市はどこか。

または、

Q3:次の文中の空欄に入る語句として適当なものを選べ。「1853年、ペリーが(  )に来航した。」

ア、浦賀 イ、新潟 ウ、札幌 エ、大阪

いかがでしょうか。これらの方が、よりすっきりしているのではないでしょうか。

では、次にQ2とQ3の違いについて考えてみましょう。Q2が解答者に「浦賀」と書いて答えることを要求しているのに対し、Q3は記号を選ぶだけでよくなっています。Q2は「ペリーが来航したのが浦賀」という知識を正確に知っていることに加え、浦賀という地名を正しく書けるかどうかを問うています。また、「都市はどこか」という問い方は、一見完璧に見えますが、「都市」という言葉には依然として幅があります。出題者と解答者の間で「都市」という言葉の定義について共通認識がなければ、解答者が何を答えればよいかわからないということもあり得ます。

一方、Q3は、空欄に入る正しい答えは「ア」以外に存在しないので、問題としては完全なものになっています。Q2が「浦賀」をしっかり書けているかをチェックしなければならないのに対して、Q3は「ア」か「アではない」かだけを見て採点すればよいので、出題者・解答者双方の労力がカットできるという利点もあります。

しかし、Q3にもそれなりの欠点があります。それは、「間違いの選択肢の精密度」に関するものです。たとえばこれが中学校の定期テストだった場合、多くの生徒は「浦賀」というワードを「ペリー」や「来航」や「1853年」などの、特定のワードにリンクさせて記憶しています。つまり、「ペリーと言えば浦賀」のように、条件反射的に記憶している可能性があるということです。この場合、Q3のイ、ウ、エの選択肢はあまり良質なものとは言えません。なぜなら、教科書の中のこの時代に近い範囲では、新潟も札幌も大阪も、あまり重要な都市として紹介されていないからです。たとえば、ペリーが後に開港させた町として「下田」があります。もしQ3の選択肢の中に「下田」が入っていれば、「ペリーと言えば浦賀」だけではなく、「ペリーが初めて来たのは浦賀、開港させたのは下田」という風に事実を記憶していなければ解けません。つまり、問題としてより正確な知識を試していることになり、良質なものになっています。

さらに、大阪や、札幌、新潟は、歴史上の重要性という点以外においても、あまり良い候補とはいえません。ペリーはアメリカ人であり、アメリカ人は太平洋側から来るはずである。だからペリーが来航したところは太平洋側の都市だろう。という推測をもししたならば、大阪や札幌、新潟は簡単に消去できてしまいます。つまり、Q3のような選択問題では、本当に問いたい知識以外の部分で正解にたどり着いてしまう可能性があるのです。

今回は、この辺で切り上げようと思います。テストの作り方なんて、所詮テストの作り方でしかないのですが、あえて深堀してみました。これは、広くとらえれば、相手が答えやすい質問をするというコミュニケーションにも通ずるところがありますし、精密な論理の練習になります。また、別の事柄についても問題の作り方を考えてみたいと思います。

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